今日は「加速する金融DXとクラウド活用の最前線|次世代データ戦略徹底解説」と題するBloombergのイベントに参加してきたので、その内容をレポートします。
(イベント概要、アジェンダ、会場については、下記イベントHPに記載がありますので、ここでは割愛させてもらいます)
開催前の会場はこんな感じでした。
ビッグデータ活用と環境に配慮した Microsoft Cloud
日本マイクロソフト シニアクラウドソリューションアーキテクト 畠山 大有 氏
登壇冒頭、「サスティナビリティ多めに話します」との前置きからプレゼンが始まりました。
AWSもそうですが、最近のクラウドベンダーは環境に取り組んでいる姿勢を積極的にアピールする印象があります。
驚いたのが、「液浸冷却」と「海底データセンター」というワード。
液浸冷却とは、サーバーの熱を水に浸すことで冷却する、という技術。
そして、人が物理的に容易に侵入できないよう、セキュリティの観点から海の底にデータセンターを作る、という発想。
漫画の世界のようなことが現実に起こっていることに衝撃を受けました。
Microsoft Fabricのサービスについても触れられ、ChatGPTが搭載されたCopilotをリリース予定とのこと。
これは楽しみにされている人も多いのではないかと思いました。
ブルームバーグ・データサービスと最新のデータ配信スキーム
ブルームバーグ エンタープライズデータ 日本営業責任者 ミシャ・モルガン
ブルームバーグ クオンツ・ソリューション アジア・日本統括責任者 神田 竜児
前半はBloombergがお客様環境にどのようにデータをフィードしているかの話でした。
現在、300Billion Messages per Dayという規模のデータを扱っており、年々増加傾向にあるとのこと。
また、世界各国の証券取引所、証券会社等からリアルタイムデータとして、毎日12TBを受信しているそうです。
Bloombergの環境からAzureのPrivate Link経由でお客様環境と接続しており、Azure内でデータ配信が完結する仕組みも構築。
このお話を伺うと、Bloombergからの情報入手のためには、Azureの優位性がどうしても高くなりますね。
後半はBQuantというBloombergの提供するデータサイエンスプラットフォームの話でした。
Python、Jupyter Notebook、そしてBloombergのデータを無制限に利用可能という環境が売りになっています。
ArcticDBという、Pandas(Pythonのデータ解析ライブラリ)を利用するのに比べ、40倍も速いDBを利用することで、高速なデータ分析も可能になるとのこと。
マーケットデータと社内ビックデータの融合・クラウド版AIデータ分析基盤
SMBC日興証券株式会社 グローバル・テクノロジー部副部長 市川 宜 氏
内容的には、Azureで社内のデータ分析基盤を構築した課題解決事例の紹介でした。
データ分析を始める前の課題と対応方針
- 【課題1】データの蓄積はできていたが、探索が難しい
- 【方針1-1】データエンジニアリングを強化
- 【方針1-2】データアクセスしやすい環境を構築
- 【課題2】分析ツールはあるが、使い方が難しい
- 【方針2-1】ローコードツールを利用
- 【方針2-2】 データ分析ツールを簡単にする
- 【課題3】AI・機械学習コストが高止まりしていて、量産化が難しい
- 【方針3-1】AutoML等を利用
- 【方針3-2】内製化で安価で量産化しやすい環境を構築
- 【課題4】マーケットデータと社内データの統合管理、分析が難しい
- 【方針4-1】社内外データを同じDWHで利用可能にする環境を構築
データ分析基盤構築のロードマップとしては、次のように紹介されていました。
データ分析基盤構築のロードマップ
- 2021/10〜 データ分析基盤スモールスタート
- 2022/09〜 AutoMLマーケットデータ
- 2023/03〜 社内外リアルタイムデータ
- 2023/04〜 デジタルフィードバックループ完成
1年半という期間を早いとみるか遅いとみるかはあると思いますが、当初抱えていた課題をクリアする基盤が整い、新たな価値をいかに生み出せるか次第で意味合いも変わってくるのかなと思いました。
ちなみに、デジタルフィードバックループとは、Microsoftが提唱するDXを効果的に推進するためのフレームワークです。
詳しくは、下記リンク記事をご参照ください。
DX時代に必要なデジタルフィードバックループとは?特徴など解説
また、最後にデータ分析基盤の全体構成の話もありました。
ベンダーロックインを避けるため、クラウドベンダー特有のサービスは使わない構成を意識して構築した、という点がなんとも思慮深く、賢明な判断ではないかと思いました。
正直、AWSでも同様の構成で構築は可能、と本音ベースの見解も示されていました。
とは言いながら、現時点ではCopilotが使える点でAzureの優位性が高いと考えている、との結論で締めくくられ、うまくまとめられた印象でした。
金融データ活用推進協会が取り組む業界横断のデータ活用
一般社団法人金融データ活用推進協会 代表理事 岡田 拓郎 氏
これまで岡田代表の講演は何度もお聞きしていますが、今回も金融業界を盛り上げたいとの熱い思いが伝わる登壇でした。
冒頭、FDUAの概要紹介の中で、設立1年で150社という会員規模の話がありましたが、改めて金融業界のデータ活用に対する関心の高さがわかるデータだと思いました。
続いて、AI・データ活用が進まない課題と対応方針について話がありました。
AI・データ活用が進まない課題と対応方針
- 【課題1】AI・データ活用方針の迷走
- 何の課題を解決すべきなのか不明確
- 【方針】成功パターンの類型化
⇒「金融AI成功パターン」の書籍出版
- 【方針】成功パターンの類型化
- 何の課題を解決すべきなのか不明確
- 【課題2】デジタル人材のミスマッチ
- 【課題3】組織にデータ活用のカルチャーが根付いていない
- 経営戦略をバランス良く描けていない
- 【方針】AI・データ活用する組織変革
- クラウド基盤を前提としたデータ分析
- 人事評価を絡めて、人事部と連携してキャリアアップを図れるようにする
- 【方針】AI・データ活用する組織変革
- 経営戦略をバランス良く描けていない
データサイエンティストに必要な3つのスキル領域を下図のように3つの円で表現するのが一般的ですが、岡田代表は「ビジネス力」が強い「データストラテジスト」を育成する必要がある、と話されていました。
データ分析をした結果を、ビジネス戦略の意思決定にまで繋げられる人材がより重要、というメッセージだと捉えればよいのかな、と思いました。
(出典)データサイエンティスト協会とは|一般社団法人データサイエンティスト協会
最後に、FDUAの生成AIに関する取り組みとして、「金融版生成AIガイドライン」と「金融ユースケース集」を策定予定との発表がありました。
BloombergGPTだったり、FinGPTといった金融特化型の生成AIが出てきている中で、こうしたガイドラインやユースケース集の策定に取り組まれていて、FDUAが業界のデファクトスタンダードを主導するような、強い意思・覚悟の表明だと受け取りました。
この生成AIの分野は、今後Fintech企業も名乗りを上げてくることが想定されますので、健全な業界発展のためにも、FDUAのこうした活動は大変評価できるものだと思います。
FDUAの今後の活動にも大いに注目が集まりそうですね。